食事が終わり、部屋に戻る。
あかねは自室へ。友雅は--------彼女の部屋へ。
柔らかいランプの明かりとレースのカーテンから差し込む月明かりで、十分室内は明るく過ごせる。
「よかった。叔父さんも叔母さんも元気なんですね」
「全然変わらないよ。仕事の腕も健在だった。繁盛しているようだ」
叔父母の現状を聞かされて、あかねはホッと一安心した。
実際に自分の目で確かめたいけれど、それは出来ない。
でも、一番信頼している友雅が見て来てくれたことだから、すんなり受け入れられる。
「手紙も渡したよ。後で読むと言っていたけれど、とても嬉しそうにしていたよ」
ならば今頃は、封を切って二人で目を通しているだろうか。
幼い頃から育ててくれた彼らへ、感謝の言葉を伝えたいと認めた手紙。
住む世界は変わってしまったけれど、二人のおかげで上級巫女として歩き出せたこと。
これからも幸せであって欲しいと、そんなことを綴った。

「それで…叔父上からも、君に手紙を預かってきたよ」
友雅は紙袋から、封書を取り出してあかねに差し出した。
読んでごらん、と開封を促す。
あかねは窓辺に一人移動し、封を切って便箋を開いた。
叔父の、素朴な文字が懐かしく目に飛び込んで来る。



親愛なる我が娘へ

あかねがここを去って数年が経った。
当初は寂しさに慣れずにいたものだが、友雅殿から時折送られて来る文に目を通すと、
そちらで元気に暮らしていることが手に取るように分かり、ほっと安心している。
私たちは相変わらずの生活をしている。
国王様からの手厚いお心遣いもあり、これまで同様に職人の仕事も続けている。
町の人々もさほど変化はない。あかねがいた頃と同じ穏やかで賑やかな町だ。

上級巫女の仕事が具体的にはどのようなものか、私たちには分からない。
だが、決して容易いものではないことだけは察している。
世界の安寧を神と共に作り上げてくなど、想像もできない大役だ。
苦労も多々あることだろう。しかし、あかねには友雅殿がついている。
彼が私たちの分までおまえを護ると誓ってくれた。
その言葉を信じている。

おまえと再会する日は、もう来ないかもしれない。
そう思うとやはり寂しくはあるが、
上級巫女のおまえと、その役目を終えたあとも
友雅殿が共に生き、添い遂げてくれるのは本当に喜ばしいことだ。
花嫁姿を見ることは叶わないが、せめてもの贈り物を彼に手渡した。
気の早い品物だが、いつか使ってもらえると嬉しい。

いつまでも、私たちはおまえを愛している。
聖なる存在のおまえを誇りに思っている。
人生のすべてが幸せでありますように。



------------叔父と叔母の署名まで読もうとしたが、耐えきれず目が潤んで涙がこぼれた。
決して長い文章じゃないけれど、二人が与えてくれる愛情がここに詰まっている。

ふと、背後から優しく抱きすくめられた。
あかねの様子を見ていて、じっとしていられなかったのだろう。
何を言うわけでもなく、月明かりの元で彼女を友雅は抱きしめていた。
そしてしばらくして、小さな箱を手のひらに乗せてあかねの目の前に。
「叔父上からのプレゼントだよ。開けてみると良い」
言われた通り、あかねは手に取った箱の蓋を静かに開いた。
中には、きらきらとまばゆい石をまとった指環。
純金で作られたリングに、淡いピンクとグリーン、そして透き通った石が数粒。
水晶の町は多種多様な水晶が採掘されているが、使われているのはクオリティの高い石ばかりだ。
「君が上級巫女の座を降りたあとに、必要となるものだよ」
神に仕えるためのものではなく、愛する人と結ばれたときのための。

「私にも同じ指環を用意してくれたみたいだ」
手紙の中にあった、花嫁姿とか贈り物とか…そのフレーズが指環にぴたりと重なる。
「叔父さんたち…知ってたんですか、私たちのこと」
「とっくにね。文で伝えてあったから」
え、いつのまに?
っていうか、そういえば友雅から時々文が…と書かれていたっけ。
「おそらく心配しているだろうから、定期的に日常を記して送っているよ」
気付かなかった。彼がそんなことしていたなんて。
その文の中で---------将来の二人のことを伝えていたなんて。
「両親への挨拶は基本、だろう?」
あなた方が大切にしてきた彼女を、これからは自分が護って行く。
公私共にずっと護って行くので、安心して欲しい。
必ず、彼女の幸せを護り続けて行くから、と誓いを立てて。

「その時が来るまでの、お守りの指環だね」
ピンクに寄り添うグリーンの石。
まるで自分たちの姿のように。
それらを囲む透明な水晶は、彼女を愛する彼らの姿のように。



少し遠い未来だけれど、必ずやってくるその日のために--------------
今はただ、この幸せを二人で感じよう。




-----THE END (2020.3.28UP)








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